24/2/23【QPS研究所】九州から宇宙へ 今後の成長イメージ 世界トップレベルの小型SAR衛星「QPS-SAR」について
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スピーカー
株式会社QPS研究所 代表取締役社長 CEO 大西 俊輔 氏
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提供
QPS研究所
はじめに
大西 俊輔社長(以下、大西):株式会社QPS研究所の社長をしている大西と申します。今日のセミナーを通して、当社がどういったことをしているのかを深く知っていただきたいと思っています。
CONTENTS
本日は、QPS研究所について/SAR衛星について/成長イメージについて説明した後に、Q&Aセッションという形で進めていきたいと思います。
QPSの目指す世界
SAR衛星については後で説明しますが、これを36機打上げることによって世界中のほぼどこでも10分から20分程度で観測し、観測した後に衛星間通信を使って約10分で画像を配信するといった「準リアルタイム観測」の実現を目指していきたいと思っています。例えば、災害が発生したら状況をすぐに調べることができる他、日本に不審船が現れたり、違法漁業が発生したりした場合にも状況を確認できるため、防衛・安全保障/インフラ管理/災害対策といった幅広い分野での活用を期待しています。
会社概要
当社は2005年に創業しており、私は2013年に入社して2014年から社長をしています。ニュースペースと言われる日本の宇宙ベンチャーは、今では100社以上あるかと思いますが、その中でも1番昔からやっている会社だと言われています。長い時間をかけて色々な知見を獲得した中で、小型SAR衛星というものを作ってきました。
沿革
沿革について、スライドの左下から説明します。
当社は九州に宇宙産業を根付かせることを目的に、九州大学の教授であった八坂と桜井、三菱重工でロケットを開発していた船越の3名で設立しました。八坂と桜井は1995年から九州大学で小型衛星の研究開発を推進してきたメンバーで、約30年という長きに渡って蓄積された知見と経験を有した会社です。私が2013年に入社し、その後小型SAR衛星というものを始めました。2016年には、小型SAR衛星の開発の核となる小型衛星に搭載できる展開アンテナを開発しました。これまでに6機の衛星を製造して打上げており、この先は36機の打上げに向けて活動を進めていきます。
九州を中心としたビジネスパートナー
九州に宇宙産業を根付かせることを目的として、創業メンバーが2000年の初めから九州の地場企業の方々に声をかけ、集まってくれたパートナーが当社の周りにはいます。その方々と力を合わせることによって、当社は世界でもまだ5社しか画像の取得まで達成できていない小型SAR衛星の業界の中で、高い競争優位性を持ちながら事業を進めています。
私は大学で衛星の研究開発をしてきた経験を持っていますが、「こういったものを作りたい」「小型SAR衛星を作りたい」という発想があったとしても、それを形にすることは学んできておらず、様々な業界の中で、ものづくりをしてきた地場企業の方々の高い製造能力と当社の発想・設計力を合わせることによって、世界でもあまり成しえていない小型SAR衛星というものを迅速に作ることができるのです。
スライドの地図にある通り、地場企業の方々は物理的に当社の近くにいます。そのため、設計段階から深い議論をすることができ、「こうやったら作れるんじゃないか」というところまで落とし込んでいくことができるため、設計から初号機の製造まで1年ちょっとで作ることができました。
宇宙で動くものを地上で再現することは難しいことですが、当社は衛星を宇宙に飛ばし、そこからデータを取ってお客さんに届けています。また、お客さんの声を含めて次号機にフィードバックをしているため、この先も小型SAR衛星自体の性能は向上していきますし、新しいものを作ろうと考えた時の力の源泉になっていきます。これからもたくさんの衛星を飛ばして、その知見を獲得しながら今後世界で戦っていきたいと思っています。
ビジネスモデルと商流
当社のビジネスモデルについてです。
スライドの左から、当社が地場企業の方々と一緒に衛星の開発を進めて、その衛星を世界中のロケット会社に打上げてもらいます。そうすることで衛星が宇宙で稼働して、データを取ることができ、そのデータをお客さんに販売することによって売上を上げていくという流れになります。エンドユーザーは、官公庁、インフラ業者、地図製作会社、気象情報等で、そこにデータを販売するのが当社のビジネスモデルになります。
打上げ失敗リスクについて
昨今、宇宙のイベントが多く、色々なニュースをご覧になることが多いかと思いますが、そういった中でもロケットの失敗に関するニュースも多々聞かれることがあるかと思います。しかし、ロケットの打上げ技術は進んでおり、非常に高い確率で打上げに成功しています。2024年2月の日経の記事にも出ていましたが、2023年のロケットの打上げ回数は212回で、2022年から比べると18%伸びており、過去最高の回数に上っています。
当社の1号機はインドのPSLV(スライド左上)で打上げ、2号機と6号機をSpaceXのFalcon9(スライド右上)で打上げました。5号機はRocket LabのElectron(スライド右下)で売り上げており、大体成功率は92〜99%と高い成功率を誇っているロケットです。スライドの左下は日本のロケットで、当社の3号機と4号機を同時に打上げたのですが、当社が打上げる前までは5回中5回成功して100%成功だったところ、当社がたまたま1回の失敗を引いてしまいました。打上げが失敗しても、当社は保険をかけることによって衛星の開発費用と打上げ費用を補填することができます。今後、当社がたくさんの衛星を打上げる際には、成功確率の高いロケットを選びながら、計画を着実に進めていこうと考えています。
『日本初』分解能1m以下100kg級小型SAR衛星
SAR衛星についてです。
当社がビジネスとして対象にしているのは、分解能1m以下といって、当社はそれをさらに性能で上回る46cmの分解能画像を撮っていますが、これはとても高い分解能を持ったもので、普通の衛星は1000kg~2000kgといった大きい衛星ですが、当社の衛星は100kg級のとても小型の衛星になります。なおかつ、地球を見る衛星の中でも電波を使って地球を見る「SAR」と言われる技術で、それが当社の事業となります。
光学衛星の課題とSAR衛星
冒頭にご説明した「準リアルタイム観測」を実現するために、なぜ衛星が必要なのかについてご説明します。地球を見るための手段として、大きく2つあります。スライドの左側がカメラを使った衛星で、スライドの右側が当社の電波を使った衛星です。現在、地球を見る衛星のほとんどがカメラを使った衛星で、それらは皆さんのお手元にあるスマートフォンのカメラや一眼レフのカメラと同じ原理です。それを宇宙から地球を見るために使っています。皆さんもお使いの通り、それらのカメラには太陽の光が必要となります。日中であれば普通に撮影することができますが、夜の場合はフラッシュを焚いて撮影するかと思います。しかし、宇宙からはフラッシュを焚くことは出来ないため、夜は真っ暗で地表を見ることはできません。また、雲や煙があると地表を見ることが出来ません。天気予報の画像を見ると、例えば気象衛星ひまわりで映った雲が見えるかと思います。雲を見るのはとても大切で必要なことなのですが、地表を見ようと思うとそれらが邪魔してしまいます。そういったカメラを使って地表を見ようとすると、晴れた日の昼間しか見ることができず、確率で言うと大体昼と夜で半分、世界中の天候率を考えると大体25%が晴れた日の昼間となります。そのため、光学衛星をたくさん上げたとしても、その期間しか見ることができないため、当社がやろうとしている「準リアルタイム観測」の実現は難しくなります。
では、当社がやっているSAR衛星とは何かというと、衛星から電波を打ち、電波を打ったものが地表から跳ね返ってきて、またその電波を受信して処理することによって画像にするものです。そのため、撮影するための源は衛星自体で打つ電波となるため、昼夜問わず、太陽の光も必要ありません。また、使っている電波の周波数は雲や煙を透過するため天候不良時も見ることができ、ほぼいつでも見ることができます。ただ、問題点としては電力を多量に消費します。例えると、SAR衛星は電子レンジぐらいの電力を必要とします。下手すると、家のブレーカーが落ちるぐらいの電力が必要となります。これを宇宙上で賄わなければいけないため、これまでは大型衛星でなければ実現できないと思われていました。しかし、そういった大型衛星は数百億円もするため、それをたくさん打上げるのは難しいという問題点がありました。
では、当社はどうしたのかというと、小型衛星に搭載できる大きなパラボラアンテナを作ったことによって、分解能は大型衛星と変わらず、衛星のサイズを小型化(100kg級)することができ、1機当たりのコストを約5億円まで低減することができました。それらをたくさん打上げることによって、「準リアルタイム観測」を実現することができると考えています。
QPS-SARの展開式パラボラ型アンテナ
小型SAR衛星に必要なのが、展開式のパラボラアンテナです。
スライドの左が実際に収納した時の状態で、右に向かってアンテナが展開した形になります。
モザイクがかかっていないところがアンテナで、実際の収納はもっとコンパクトになりますが、動画では0.5倍速で展開していきます。コンパクトに収納して広く展開するアンテナであれば、様々な企業が作れたかと思いますが、重要な点は開いた後の形にあります。表面が1mm、2mmずれただけでもアンテナの性能はすごく落ちてしまいます。開いた後、綺麗な形になることがとても重要で、1号機を作る前にアンテナを開発していたのですが、アンテナの展開動作を100回ぐらい繰り返し、色々な試験と改良を経て現在の形に至りました。地場企業の方々と様々な議論をしながら作ったからこそ、これまでしっかりとアンテナを展開することができ、良いデータを取ることができています。これがまさに当社の競争力の源泉になっています。このアンテナは特許も取っており、周辺特許も取りながら、ノウハウを積み重ねて事業を進めています。
QPS-SARのSAR画像
こちらが、当社が実際に撮ったSAR画像です。
先ほどお伝えした通り、衛星から電波を打ち、地表で電波が跳ね返ってきて、それを受信して画像化したもので、その電波の強弱を白黒にしています。そのため、強い電波が返ってきたところは白く映り、電波が跳ね返ってきていないところは黒く映ります。技術的に深いところまでお伝え出来ないので、簡単に説明しますと衛星から少し斜め下に向けて電波を出します。黒く見えるところは海(水が張っているところ)です。斜めに電波を打つと、海はほぼ鏡のように見えるため、電波はそのまま奥に行きます。そのため、電波は跳ね返ってこずに黒く映ります。一方で、建物は特に電波が跳ね返ってくるので白く見えます。公園に木々が見えますが、木が生い茂って葉っぱが密集してるところは電波が跳ね返ってくるので、少し白く見えます。そういったものがSARの見え方になります。そのため、スライドの左側は木々まで見えますし、スライドの右側は港の中のコンテナやクレーンまで見えます。
当社はデータを販売していく中で、より高い分解能でより細かいものが見えるデータが売上の中で主流になります。当社は時々ニュースで「高精細モードの画像を取得しました」と発表していますが、これは見たいところを長く見ることで高い分解能の画像を取得することができるものです。5号機で福岡市を撮った時の画像がスライドの右側です。
拡大すると博多駅の周辺のビル群や南北に伸びる線路が見えます。いつでも画像を撮ることが出来る衛星の数が増えると、見ることができる頻度が高まります。それこそ数十時間に1回だったのが、数十分に1回となり、また短時間で広い範囲を見ることができます。このように衛星の数が増えることで、広範囲に存在するインフラを効率的に監視することもできるようになります。インフラというと、例えば九州だけでも様々な送電線や線路があります。この先、労働人口が減っていく中で、それらをどのように管理していくかが問題となりますが、衛星から見るデータで全部を解決することはできないにしても、ある一定の状況がすぐに分かるようになります。
また、夜間や天候不良時に船舶の航行情報を提供することもできるようになります。港で濃霧が発生すると船は止まらざるを得ないですが、そういった中でも当社の衛星であれば夜でも見ることができますし、曇りでも見ることができます。そういった中で情報を提供することによって、効率化が図れるのではないかと考えています。
堤防/土手/ダムの管理においても、それらは人が行きづらい場所に存在するため、万が一そこで災害が発生した際には、どのように状況を把握するのかが問題となります。そういった際にも、宇宙からであれば現場の状況に関係なく見ることができますし、災害発生時はいかに早く災害状況を把握するかが重要となるため、そういった場面でも活躍すると考えています。
そういった中で、2024年1月1日に能登地方にて地震が発生した際には、状況把握に役立てるために当社のデータを防災科研さんの防災クロスビュー(https://xview.bosai.go.jp/)の中で提供しています。ただ、当社の衛星の数はまだ少なく、いつでも見られるかというとまだ頻度は高くないため、この先起きるであろう様々な災害に対してしっかりと対応できる状況を作るためには、衛星の数を増やしていく必要があると思っています。
人工衛星の軌道(観測頻度の考え方)
そもそも観測頻度とは何なのかについてご説明します。
(スライドの左端)衛星は地球の周りを1周約90分~100分で回ります。秒速に直すと7km〜8kmぐらいで進んでおり、一瞬で目の前を通過するようなスピードで動いています。そういった中で、衛星が1機の場合、1区間に対して90分に1回見えるような円ができることになります。その同じ円の中に衛星の数をたくさん入れていけば、衛星が次々と来ることとなり、要するに観測する頻度が高まります。そのため、スライドの右端のように90分で1周する円に9機の衛星を等配すると、大体10分間隔で衛星が来ることとなり、10分で見ることができるような円ができます。
ただ問題が1つあります。地球は24時間に1周していて、衛星は90分に1周しているため、衛星が90分で回ってきた時には、地球は既に少し回っていて、例えば日本を見ようとしても違うところに行ってしまっているのです。そのような中で全世界を網羅するにはどうするかというと、円を4つ設けます。上から見ると、4等分できるように設けることで、1つの円が過ぎ去ると次の円が来るようにします。「準リアルタイム観測」を実現させるために36機の衛星を打上げるとお伝えしているのは、9機の衛星の円を4つ設ける(9機×4=36機)ことで、世界中ほぼどこでも平均10分で見れる世界が作れるのではないかという考えによるものです。
36機の打上げが実現出来た場合、1つの衛星が福岡を見たとすると、10分後には別の衛星が来て福岡を見ます。それを次々に続けていくことによって、10分間隔で見ることができる世界になります。これが観測頻度というものです。
QPS-SARの一生
衛星を作ってから最後はどのように至るのかについて説明します。
(スライドの左上から)衛星の開発は地場企業の方々と進めており、ロケットを飛ばす時に大きな力がかかるため、その際に壊れないか、宇宙空間の真空で壊れないかといった点を全てチェックして組み上げています。打上げは世界中のロケット会社さんに衛星を載せてもらわなければならないため、飛行機に乗せて貨物便で送っています。そしてエンジニアが現地に行き、ロケットの取付け作業を行います。その後、ロケット会社さんに取付けられたロケットを宇宙に打上げてもらい、宇宙空間に放出してもらいます。
そこから当社の衛星の仕事が始まります。初期運用ではアンテナの展開や衛星の細かいチューニングをしたり、実際に電波を使った地球観測をしたりする中で、初画像(ファーストライト)というものをプレスリリースします。このようにして、ようやく衛星で画像を撮ることができます。当社は初期運用の中でこれらの動きを続けて、多くのユーザーからのリクエストに応えたデータを毎日配信できる体制を整える必要があります。
体制が整ってから約3ヶ月後以降に定常運用を始め、そこから約5年間稼働させます。設計寿命を5年間と設定しており、設計寿命は大きく分けて2つあります。1つは、宇宙は放射線がとても強く、地球の大気や磁場がないので、宇宙からの放射線が降り注ぎます。それによって電子部品が壊れるため、設計寿命に関係します。もう1つは、衛星は皆さんがお持ちのスマートフォンと同じで、リチウムイオンバッテリーで動いています。太陽の光から電力を確保してバッテリーから供給するため、先ほどお伝えしたように90分に1周回るということは、1日に15周回っていることになります。その間に太陽が当たっている時と当たっていない時があるため、大体1日で15回バッテリーの充電と放電をすることになります。それが5年間となると相当な回数になります。皆さんのスマホのバッテリーは約2年でへたってしまうかと思いますが、衛星の設計寿命が5年ということは5年経ってもへたらないように設計しなければならないということです。それらを加味して作ったものを打上げて、稼働させています。
設計寿命を超えても動くというのは通例の衛星でもやっていますが、動かすことができなくなった後は衛星を徐々に地球の大気圏に落として、燃えつきさせて消します。そうすることで当社の衛星は、宇宙空間にデブリ(宇宙ゴミ)を出さずに役割を終えることができます。このようにして衛星の一生が終わります。5年間の寿命なので、5年後にはまたリプレイスしなければならないため、衛星をどんどん打上げていくことが当社の今後の計画になります。
データ販売の売上モデル
当社の売上モデルについて説明します。
ユーザーからのリクエストに応えた高精細データを撮ってお届けすることをOn Demandと言います。On Demandデータが売上のメインで、売上モデルには3つの要素があります。
1つは販売枚数です。衛星の数が増えると観測の頻度が高まり、撮れる面積が増えるため、データの価値が高まります。そして、衛星の数が増えれば1日の枚数が増えます。例えば、衛星が1機や2機だと、12時間に1回や24時間に1回しか撮れないですが、衛星の数が増えると、数十分に1回撮ることができるようになります。このように撮影できるエリアのカバー率が増えれば、データを求めるユーザーさんは増えると思います。衛星の数が増えるとデータの販売枚数が増える中で、当社は安全保障を中心に、最低限売れる枚数を地域の数や世界中のエリアを分析して、1日の最低販売枚数を6枚〜15枚と考えています。
2つ目は画像の単価です。単価は1枚約40万円としており、官公庁を中心にプレミアムをつけることによって単価は2倍程度まで上がると考えています。
3つ目が代理店マージンです。衛星の売上に対して75%かけたものが実際の売上になります。これで当社の衛星の1機あたりの売上が見えてくることになります。
(スライド中央の黄色帯)主要なコストとして、1番目は衛星を作って打上げるまでの開発・打上げコストです。1機あたり10億円で運用期間が5年ですので、1年あたり2億円ということになります。次が人件費や通信費といった、開発・打上げコスト以外のコストを全てひっくるめたものを運用コストとして定めています。これが1機あたり年3.5億円ですので、1機あたり年5.5億円のコストがかかってくることになります。
(スライド最下部)衛星がちゃんと稼働して、最低1日6枚の画像を提供すると月の売上は5,400万円でコストは4,900万円となるため、1機あたりでも黒字となります。衛星の数が増えれば1日の販売枚数は増えますし、運用コストも衛星の機数が増えれば下がってきます。例えば、8機で撮ると月の売上は5.7億円に対して、コストは3.7億円となり、24機で11枚撮ると月の売上は23.7億円に対して、コストは8.8億円となるため、利幅が増えていきます。そのため、当社は衛星の数を増やして、事業売上を伸ばしていきたいと考えています。
事業実績の推移
事業実績の推移として、スライドに前々期/前期/今期とありますが、今期のみはまだ第2四半期ですので半期で比較しています。売上高を見ていただくと、今期は2023年10月から商用機(36機)の一部となる6号機が実際に稼働してデータ販売をしていく中で、半期の時点で前期に比べて売上が高くなっています。なおかつ、業績予想に対しても売上・利益ともに計画を上回っており、第2四半期(2023年9月~11月)だけであれば短期的に黒字化を達成しています。そういった中で、下期の売上高は上期に対して約2倍に伸びると開示済の業績予想の中で見込んでいます。このようにして、衛星を打上げながら着実に実績を積んでいきたいと考えています。
売上の拡大イメージ
今後の売上の拡大イメージについてです。
SAR衛星市場はこれまでなかなか出てきていなかったため、今後はどんどん伸びていく分野で、2027年~28年までに全世界で年間74~75億ドル(約1兆円)まで成長すると言われている市場です。世界でも5社くらいしかデータを提供できない中で、国内民間の衛星を利用する市場はまだまだ黎明期ですので、当社は確実に需要がある国内官公庁向けにデータを出して売上の軸を作っていきたいと考えています。その中で衛星の数を増やしていくことで、官公庁以外にも提供できる観測のキャパシティや頻度を増やし、データの価値を高めていきます。そういった流れで海外や国内民間に対しての販路を拡大していきたいと思っています。
海外に関しては、SAR衛星は世界でも5社くらいしかデータを提供できる会社がないほど難しいものであるため、需要に対しての供給数が足りていません。また、1社が100機、200機と衛星を飛ばすことは難しく、そういった中で、当社は各社が相互にデータを融通し合って共存する世界を想定しています。例えば、米国の国防省は世界中の色々なところを見なければならないため、ニーズが高いところに対しては予算規模も高いです。その一部に当社のデータを提供することができれば、売上は拡大していくと考えています。そのため、当社は国内外の代理店を通じて、世界中の政府機関系との提携実現に向けて協議を進めています。
国内民間に関しては、SARのデータがまだ出てきていないため、インフラの効率的な管理や災害時の保険の支払いに必要な状況把握に当社のデータが使えると考えています。全部は網羅できませんが、データを使って効率化することを数社の大手企業と一緒に実証して進めているところです。最終的には、国内官公庁と国内民間・海外の比率を50%ずつにすることによって、市場リスクやカントリーリスクの影響をあまり受けない、安定的に収益を出していく構造を作っていきたいと思っています。
SAR画像データの取得実績と今後の見通し
当社は今後も衛星の数を増やして、コンステレーションの構築を進めていきますが、これまで色々な改善やトラブルがありながら今に至っています。スライドは当社の衛星を打上げたスケジュールとこれから打上げるスケジュールです。これまで6号機まで作って打上げています。1号機に関しては、衛星の中でのトラブルによって画像が取れなかったり、3/4号機はロケットの打上げに失敗してしまったりしましたが、見つかった改善点やユーザーからの声をもとに衛星の性能向上を進めています。現在はこういった形で、実際に宇宙で動かしてサービスに使っているという実績を有しながら、今後さらに性能の高いものを作るための土壌ができています。そのような中で、既に7/8号機が契約済みとなっており、まだ打上げ事業者から公表されていないので時期を含めた詳細は公表できませんが、この件については当社のリリースを待っていただければと思います。
ロケットは、年間212機(2023年)も打上げられており、ほぼ飛行機に近い状況になってきています。飛行機は前の便が遅れたり、前の便の機材が届かなかったりすると、飛行が遅れるかと思いますが、ロケットも同じような状況になってきているため、この先もしかしたらスケジュールが少し伸びることもあり得るかもしれないですが、それによる当社の事業への影響は少ない見込みです。この先も7/8号機を打上げていきますので、会社からのプレスリリースを待っていただければと思っています。
コンステレーション構築計画
今後36機の打上げを目指す中で、どうやってコンステレーションを作っていくのかについて説明します。当社は2027年度(2028年5月期)までに24機の打上げを考えています。上場前に銀行から50億円の融資枠をいただいており、上場時の資金調達も行いました。これで18号機までの製造と打上げ費用を確保しています。2024年5月までには残る7号機と8号機を打上げて、2024年度には4機、2025年度には6機打上げる予定です。
製造能力について先日プレスリリースを出しましたが、福岡市の施設を一棟貸していただくことになり、今の工場とその新しい研究開発拠点を合わせて、年間の製造能力を4機から10機に上げることができるようになります。それによって、24機そして36機の打上げに向けて、高い実現性を持って進めることができます。
今後のビジネス展開
今後のビジネス展開については、24機そして36機の実現に向けて、衛星の開発を進めていくというところです。衛星の性能を上げていくことはもちろん、さらに高い観測頻度やエリアの拡大を求められることがあれば、36機を上回るコンステレーションの構築も考えていきたいと思っています。
小型SAR衛星の事業を始める時には、他にも色々なアイデアがありました。その中でまずは小型SAR衛星の事業に注力しますが、その後事業が軌道に乗ってくることによって、小型SAR衛星に代わる次の種を生み出していきたいと思っています。アイデアもありますし、周りに地場企業もいるため、アイデアを形にする力は強いです。新しいものも事業の軸として作ることによって、さらにこの先の事業を拡大していきたいと考えています。
当社はまだ上場したてですが、日本の市場の中に宇宙産業を根付かせていきたいと考えており、その中で当社の事業を伸ばしていきたいと思っています。またIRセミナーという形でやり取りをさせていただきながら、一緒に日本の宇宙産業を作っていきたいと思いますので、これからもよろしくお願いします。
質疑応答
質問:大西社長が社長の職を頼まれた時の率直な気持ちを聞かせてください。
大西:社長になりたいという形で入社しました。先生方が培ってきた地場企業との連携がとれる土壌がとても魅力的で、私も大学時代からJAXAを含めて日本の色々なプロジェクトに携わってきましたが、ここまで大きな企業群とQPSという核となる企業が一緒になってやっている土壌はなかなかないです。こういったところから新しいものが生み出せるのではないか、私も是非発展させたいという思いで入社しました。また、私も詳細に把握できているわけではないのですが、創業メンバーの八坂が色々な話をしていく中で、日本最初の人工衛星「おおすみ」が打ち上がった時、八坂は大学生で宇宙開発をやっていました。その頃は宇宙を専門としてる会社はなく、大学という組織の中で企業の方々が一緒に日本初の衛星を打上げようとして、切磋琢磨しながらやってきたものでした。そういったものが繋がって今の日本の宇宙産業ができていると思います。スタートはそういった連携があってできると思っていたので、九州にはそういった土壌があると感じました。この先宇宙業界はまだまだ発展する業界で、新しいものはこういう土壌から生まれるのではないかと勝手ながら感じたので、是非とも発展させたいという思いで引き継いで、社長になりました。
質問:日本にとって重要な事業かと思いますが、国や県からの支援はどのようなものがありますか。直近ではTSMCの誘致のようなものもありましたが、いかがでしょうか。
大西:スライドの中にはなかったのですが、当社は衛星を作っていく中で国から約60億円の事業を本日(2024年2月23日)のセミナー登壇時点で、いただいています。それはデータを提供するという内閣府の事業もありますし、先進的な衛星を作ってくれという形の経済産業省の開発支援もあります。やはり国としても宇宙開発、特に小型SAR衛星というのは世界でも戦える貴重な分野なので、そこに対しての支援は高まっていると思います。冒頭でもお伝えしましたが、福岡市の方々からは一棟貸の施設を貸していただき、福岡県からも上場前から衛星打上げのライブビューイング等、様々な支援を頂いてきました。このように、この先の安定的な研究開発への支援をいただいていますので、宇宙産業を盛り上げていくという国や自治体の機運は高まっているのではないかと思っています。
質問:衛星画像の販売が主要事業だと思いますが、今後スターリンクのような衛星通信のための衛星を打上げる計画はありますか。また、衛星通信事業への参入予定はありますか。
大西:正直に言うと、地球を見るという観測衛星と宇宙上から地上にインターネット網を張るというのは、業体が異なると思っています。当社は地球を見るための衛星を作っています。ただ、当社はリアルタイムでデータを提供していかなければならず、観測してからすぐにお客さんへ届けなければなりません。現在世界中には地上局と言われるパラボラアンテナが地上にあり、そこに衛星がデータを下ろしているのですが、それには限りがあり、いかに早くデータを下ろすかというネックがある中で考えると、宇宙上のインターネット網を通じてデータを下ろしていくことは必要です。そのため、宇宙に通信網を張っていただいて、それを使うという形で参画することはあります。そういったサービスを使うことによって、当社の「準リアルタイム観測」を実現する、そういった形での連携は見込まれます。
質問:SAR衛星関連市場は、2027年~2028年頃にはおよそ1兆円まで成長するという話でしたが、現在はどのくらいのマーケット規模でしょうか。
大西:調査会社としては出しているところはあるかと思いますが、小型SAR衛星というものが出てきたのがここ最近の2019年からで、今上がっているという状況です。どちらかというと、今のパイというよりもこの先伸びる率が高い事業となります。そこに対して、当社はデータの提供を進めていきたいと思っています。
質問:社長から見てQPSに足りないことは何ですか。
大西:上場させていただいて、市場の中でも事業を拡大していかなければならないところですので、まだまだ様々なものを足していかなければならない状況だと思います。やはり1番は、当社の衛星の数が足りていないことだと思っています。数を増やしていくことによって、市場に対してさらにデータを提供していくことができますし、売上モデルに関しても衛星の数が増えなければ利幅は増えていかないため、いかに早く衛星の数を増やしてコンステレーションを作るかということに注力していきたいと思っています。ただ、こういった技術は繊細なもので、あまり急ぎ過ぎると失敗することもあるため、着実に1機ずつ衛星を打上げていきながらコンステレーションを作っていくということが今1番大切だと考えています。
質問:上場して何か変わりましたか。
大西:まず1つは、ありがたいことに上場すると注目をいただき、当社も採用を進めていますし、様々なところで認知度を上げていかなければないけないという中で、上場したからこそアプローチをしていただける数が増えたというのはあります。また、ありがたいことに機関投資家との面談をたくさんいただくようになりました。当社の事業がどういったものなのかを日々説明しながら、市場の中に宇宙産業というものの認知度を上げることができているのではないかと思っています。
質問:今の株価や業績を見て、率直な感想を聞かせください。
大西:株価は、当社の事業に対しての評価と外部環境に左右されるところなので、私自身や会社として何か言うことはなかなか難しいと思っています。ただ、当社のビジネスの仕組みをしっかりと理解していただいて、その上で応援していただける企業になっていきたいと思っています。市場の中で宇宙産業はこれから発展していくものなので、当社としては継続的に投資家様とのやり取りを通して、当社の事業を理解していただきながら、この先の宇宙産業を一緒に作っていきたいと思っています。まずは直近では18号機までの資金調達はできているので、それを1機ずつ打上げることによって、当社の事業は伸びていくと思います。そういった中で適正な価格に落ち着いていくのではないかと思っています。それに向けて一歩一歩進めていきたいと思います。
質問:QPSのグッズが欲しいです。QPSのジャケットは買えますか。
大西:ありがたい言葉ですが、当社の事業はデータ販売であり、機数を増やしている最中なので、まずは機数をしっかりと増やして、その先に検討していきたいなと思っています。そう言ってもらえるのはすごく嬉しいので、そういったことをする土壌に立てるように直近の事業に注力したいと思っています。
質問:九州初の宇宙ベンチャーとして、今後世界をどうしていきたいと考えていますか。
大西:当社は世界でも5社しかできていない小型SAR衛星というものを九州の場で作っていますが、こういった最先端の宇宙開発はなかなかできるようでできないものです。世界で見ても少ないことを九州でできているということを考えると、この先当社の事業を伸ばしていくことによって、さらに良い衛星を作っていくことができる知見がこの土壌にはあると思っています。世界中から「QPSに来たい」「QPSと少しでも関わって箔をつけて、さらに他のところへ羽ばたいていきたい」という方が多分出てくると思っていまして、そうなれるように私も頑張ろうと思っています。QPSから育った方が世界中の宇宙開発に飛び出していくことによって、世界中の宇宙産業が発展していくということはあり得ることだと思います。これほど頻繁に新しい衛星を作って、打上げて、データを取るというサイクルを進めることができる環境はなかなかないので、この九州の土壌を生かして世界中の宇宙産業の技術や土壌をより発展させる集積地になればと思っています。